[ テーマ: 判例情報 ]
2007年5月8日15:03:00
小児科医の自殺に二つの判断
3月14日と29日に、立正佼成会附属佼成病院の小児科の医師の自殺をめぐり、同じ証拠と事実から東京地裁で二つの異なる判決がでました。
14日の判決は労災の遺族補償給付を認めたもので「管理職就任直後、同僚の相次ぐ退職で、月八回の泊まり勤務など激務を強いられ、睡眠不足から相当なストレスを受け精神的負担も重なり、うつ病に罹患し判断能力が制約された状態で自殺をした」ので業務との因果関係を認め、この自殺を労災と認めました。
1方、29日の判決は、遺族が病院に対して慰謝料二億五千万円の損害賠償を求めたが「宿直回数は他の病院と比較して突出して多いとはいえず、仕事が特に過密とはいえず、うつ病発症の危険性を持っていたともいえない。仕事以外にも健康状態や相続問題などの心理的負担を抱えていた」のでうつ病と仕事と因果関係は認められないので、請求を棄却しています。
労災は「無過失責任」で事業主に過失がなくても業務との相当因果関係があれば業務上を認めています。これに対して損害賠償請求は、民法415条の債務不履行による損害賠償か、703条の不法行為による損害賠償を根拠とすることになります。すなわち自殺の原因がうつ病であったとしても、うつ病に罹患したことと、仕事との因果関係がイコールであり、仕事を命じた事業主に債務不履行か不法行為があったかが問われます。
新聞記事では「同じ証拠で違う判決が出た理由が分からない」と弁護士が述べたとありますが、特定社会保険労務士としての私としての見解は、今後は、労働安全衛生法の第3条事業主の「安全配慮義務」違反で争えば、上告審では違う判決がくだるのではないかと注目しています。恩田